どうも、さわざわです。
今回はCDS(correlated double sampling)技術について触れていこうと思うよ。これは調べるとイメージセンサなどで頻繁に用いられる技術として出てくるかもだけど、もちろんADCとかそれ以外のアナログ回路でもノイズ低減のテクニックとして幅広く活用されているものになるよ。目から鱗な技術だけど注意点も多いので、みんなも勉強していってねい。
この記事を読めば、ノイズを低減する手法としてCDSについて理解することができ、どういったノイズが低減できてどういったノイズには効果がないか等が理解できます。今回はイメージセンサを例にしたデジタルCDSがメインです。
CDSの基礎概念
普通にアナログ信号を読み出そうとした際には必ずノイズが乗ってきて、場合によってはこのノイズに苦しめられるケースってのが多いんだね。
ここでいうノイズってのはいろいろあって、S/Hを用いた際にはkTCノイズだとか読み出し回路のばらつきやオフセットだとかいろいろあるんだけど(後述)、とにかく信号の他にノイズがたくさんいると。これではSNRが悪くなっちゃうので、このノイズを何とか小さくしたいんだね。

ここら辺は熱ノイズ観点で以前に基礎的な点を触れているから見てみてねん。
→ノイズの基礎について
一方でノイズを低減する手法として、CDSってのがあるよ。これはcorrelated double samplingの略で、その名の通り相関のあるノイズが乗った信号を2回サンプリングして、2つの引き算をすることでノイズだけ除去して信号を取り出そうってやり方だよ。
図にするとわかりやすくて、例えば最初は信号を含めずにノイズだけでサンプリングを行って、その後に信号に加えて同じノイズが乗るようにサンプリングを行い、その引き算から信号だけを取り出すってことだね。ここでノイズの中身は2つで同じものでないといけない(correlatedでないといけない)のがみそだよ。

CDSの例(CMOSイメージセンサの場合)
昨今のイメージセンサの場合は2回サンプリングをしてるっていうか、ノイズだけのものとノイズ+信号の2パターンをAD変換して、その差分を計算して出力してるってのが多いよ(後述するけどこの方式はデジタルCDSなんて呼ばれるよ)。
イメージセンサに関してはまた機会があれば詳しく触れてみるけど、イメージセンサってのは光を光電変換してそれを電気信号としてアナログ値からデジタル値に変換して(AD変換して)読み出してるんだね。

その際にまずは信号を含めない空の状態で読み出しを行う。これでは何も読み出せないってわけではなくて、kTCノイズなり回路の素子ばらつきなり、様々なノイズを含んだ出力が読み出されるんだね。

もうちょっと具体的に言うと、イメージセンサってのは読み出す前に画素内の読み出しノード(FDノード)リセットをかけて空にしたあとに信号を読み出すんだね。ただそのリセットを終える際に必ず以下のようにkTCノイズが乗ってきちゃうんだね。

ということで最初のADではこういったノイズを含めて読み出してるってことになるよ。
kTCノイズについては先に以下から読んでみてねん。
→kT/Cノイズとノイズ帯域幅について

つづいて今度は光電変換した信号も含めて、それ以外は全く同じ読み出しを行うと、さっきのノイズに所望の信号だけ加わったようなAD変換が行えて、その差を取ることでノイズを除去して信号だけを読み出せるってことになるんだね。


CDSの凄み
CDSってのはノイズを低減できる技術ってのは説明したけど、その凄みというかどんなノイズをキャンセルできるのかってのに触れていこうと思うよ。
kTCノイズ
イメージセンサを引き続き例に出すけど、イメージセンサは以下のように信号を読み出す前にリセット動作ってのを挟むんだね。これによってリセットの電位レベルってのをそろえてその後に信号だけ読み出すってのが理想的なんだけど、さっき言ったようにリセットをかけて閉じる際には画素内にkTCノイズが乗ってしまうんだね。

このままだと↑のように画素によって乗っかるノイズの絶対値が異なっちゃうので、リセットをかけた後に一度AD変換をしちゃうよ。
これによって、各画素で異なってのっていたkTCノイズってのはキャンセルされるので、各画素の信号だけきれいに取り出せることが可能になるって話なんだ。

ちなみに後で説明するS/H回路を用いたアナログCDSなども本質は同じようなものだと思っていて、リセット電圧をサンプリングした際にkTCノイズが乗るけど、そのままAC結合で信号部分を読み出すのでkTCは理想的にはキャンセルできるよ。
回路ばらつきやコンパレータの反転ディレイ
一般的には上記のkTCノイズキャンセルがCDSの大きな役割なんだけど、他にも以下のようなVthなどを含めた回路ばらつきも、CDS読み出しすることで低減できるようになるよ。

これは同じ回路(同じ経路)で2回読み出しをしている恩恵になるね(回路の動作点含めて入力信号依存が見えないこと要)。

あとはこれもイメージセンサの回で話すかもだけど、CMOSイメージセンサではAD変換にSS(シングルスロープ)-ADCを用いることが多くて、コンパレータ回路があるよ。
詳細をあげると長くなっちゃうから割愛するけど、実際にはコンパレータの反転遅延なりばらつきが存在するはずが、同じ入力応答を与えていればそれもCDSでおおよそキャンセルできることになるよ。

遠近端差の負荷
もう一個は例えば右端から回路駆動の信号とかを与えたとして、遠近端によって負荷が異なると思うけど、それによって回路駆動の遅延が発生したりもすることが考えられるね。これもCDSをすると同じだけ遅れて2回読み出すわけだから、およそ低減が可能になるよ。
(ちなみにCMOSイメージセンサでSS-ADCを使用する場合は、AD変換の基準となるRAMP信号ってのをチップ端からカラムADCに与えたりするので、そこでCDSの本領も発揮されてるんだ。)

CDSでキャンセルできないもの
ここまでいろいろとCDSの凄みについて語ってきたけど、ここからはCDSでキャンセルできないノイズについてもちょっとだけ触れていくよ。まあなんとなくイメージはついてるかもだけど。
ランダム成分(時間変化するノイズ)
一つ挙げられるのは、時々刻々と変化するノイズになるよ。以前に挙げたような熱ノイズとか1/fノイズとかがこれに当たるわけだけど、これは時間に応じて値が揺らぐようなノイズなので、1回目と2回目で違う大きさのノイズが乗ってしまってはその差分でキャンセルはできないね(むしろ無相関のノイズの加算で大きく見えるかな?)。

ちなみに、コンパレータなりアンプなりには電流源がついてるわけだけど、このバイアス元からのノイズがノイズ源となりうるケースがあるよ。

これがリセット電圧と信号電圧読み出し時に異なった揺れ方に見えて誤差は残っちゃうんだけど、最初の読み出し前に以下のようにサンプリングスイッチで切っちゃえば、先の画素リセットと同じで共通のkTCノイズが乗るものの時々刻々と揺らぐランダム成分は排除できて、CDSにて影響を緩和できるよ(ホールドノードとなった際はカップリングでの電位変動に注意)。

サンプリングスイッチについては以下で述べてるよ。
→サンプリングスイッチと電流源への応用について
余談だけど実際にはCDSを用いると、時間依存のあるノイズとして扱える1/fノイズはある程度緩和ができるよ。これはまた後の話で。
入力依存が見えてしまう誤差
CDSの前提はcorrelatedなことであるので、さっきの回路ばらつきとかもそうだけど、基本的には2回の読み出しでどちらも回路の動作は全く同じであってほしいんだね。
なので例をいくつか挙げるけど、信号読み出し時にだけ回路の動作レンジ外となって回路の駆動状態が異なったりだとか、信号読み出し時にセトリングが間に合っていないだとか、そのセトリングにカップリングを持って電流源のホールドノードが変動してしまうだとかは、CDS誤差となるよ。

S/H回路を用いたCDS(アナログCDSの例)
上記までは主に昨今のイメージセンサで用いられる、2回AD変換してデジタル値からCDSを行うというデジタルCDSをもとに説明してきたけど、S/H回路を用いたアナログCDSもあって、イメージセンサ以外のアナログ分野でも用いられる手法だと思うよ。
その名の通りアナログ値のままCDSを行うんだけど、以下のようにSW1をかけてリセット電圧をサンプリングして、その解除後にkTCノイズは乗るけど、そこからはフローティングノードのままAC結合として信号を読み出すって感じかな。
これはかなり簡潔な回路の例だけど、実際はADCなどではスイッチトキャパシタアンプを組み合わせて用いられることが多いと思うよ。

まあやりたいことはデジタルCDSと同じなんだと思う。
S/H回路の基礎的な話については以下にあるよ。
→スイッチトキャパシタアンプのサンプル・ホールドについて
ちなみにS/H回路を深ぼっていくと、CDSを使わずにこのkTCノイズをキャンセルする機構もあったりするので、機会があったら触れてみるねん。
今日はここまで、ほな。
雑談枠
イメージセンサの話って、SS-ADCベースのものはなんとなくわかった気にはなれるんだけど、ΔΣ-ADC系になった瞬間に理解が追い付かなくなるんよな。
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